遺言書作成
生前対策としての遺言書
生前に遺言書を作成しておくことは、相続争いを未然に防止するのにとても有効な手段です。
遺言書があっても、相続人全員の合意により遺言書の内容と異なる遺産分割をすることは可能です。しかし、遺言書があれば、ほとんどの場合、被相続人の意思を尊重してそれに従って相続手続きが進められていきます。
遺言書のメリット
①『争族』を防ぐ
遺言書を作成しておくことの最大のメリットは、遺産の分配をめぐって遺族が無用の争いを繰り広げることを防ぐことです。
② スムーズな相続手続き
それ以外にも、決定した内容に従って遺産の分配がスムーズに進むという点も大きなメリットです。具体的には、以下のとおりです。
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本、又は除籍謄本があれば、あとは、遺産を受ける相続人、受遺者を確認できる書類があればよい
- 遺産目録があるので、遺産がある程度整理されているので探す手間が省ける
- 遺言執行者を選任でき、この者に相続手続きを一任できる
遺言書の種類
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
自筆遺言証書 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
筆者 | 遺言者 | 公証人 | 限定なし |
証人・立会人 | 不要 | 証人2人以上の立会い | 公証人1人及び証人2人以上の前に提出 |
署名・押印 | 遺言者 | 遺言者・証人・公証人 | 遺言者、封紙につき公証人・遺言者・証人 |
検認 | 検認必要 | 検認不要 | 検認必要 |
費用 | 不要 | 遺言書に書かれた財産の価格に応じて決定 | 11,000円 |
注目される自筆証書遺言
この中で最も費用がかからず手間もかけずに作成できるのが、自筆証書遺言です。後述の改正もあって、生前相続対策として、現在注目を集めています。
(従来の問題点)
自筆遺言証書においては、これまで以下の問題点がありました。
- ①全文手書きでなければならないため、不動産目録、預貯金目録の記載にミスがあった場合に困る
- ②被相続人が手軽に作成できる反面、遺言書の存在が不明で、紛失するおそれがある
- ③被相続人自身が作成したものかについて疑わしく、筆跡鑑定にまでもつれ込むおそれがある
- ④遺言書の第一発見者に不利な内容であった場合、偽造されたり、紛失されたりするおそれがある
- ⑤家庭裁判所による検認手続きをする必要があったため、早急な預貯金の払戻し手続きが困難
(新しくなった自筆証書遺言)
これらの問題点を解消するため、近時、法律の改正や新制度が導入されました。
2019年(平成31年)1月13日から、遺産目録に限っては、手書きでなくてもよくなりました。したがって、①の問題点は大きく解消されたといってよいでしょう(本文の記載は今まで通り自書が必要です)。
2020年(令和2年)7月10日から自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえることになりました。これにより、紛失偽造のおそれがなくなり、検認手続きも不要になります。②~⑤の問題点が解消され、相続手続きがスムーズに進むことが期待されます。
今後の課題
生前の相続対策としては、しっかりとした判断能力があるうちに、つまりできるだけ早い段階で遺言書を作成することが重要です。しかし、時間の経過とともに事情も変化するため、遺言者としては必要に応じて遺言を書き換え、その都度自分の意思を反映させたものにしておかなければなりません。
そして、遺言書は日付の新しいものが優先されます。たとえ、自筆証書による遺言書が法務局で保管されたとしても、その後に別途遺言が作成されてしまえば、保管制度により解決されたはずの問題点が依然として存在することになります。
今後、どれだけの人がこの自筆証書遺言書保管制度を利用していくかは予想がつきませんが、相続人としては、相続が開始した時、まず、遺言書がないかの確認のために、法務局や公証役場での遺言書検索をすることが常識となってくるでしょう。