生前の遺留分対策
生前の遺留分対策
遺留分とは
遺言者などの被相続人としては、同居して普段から身の回りの世話をしてくれる特定の相続人や、保護すべき事情がある相続人、あるいは特定の第三者に財産のすべて(大部分)を渡したいと考えることがあります。
しかし、民法は、その被相続人の意思について、制限を定めています。民法に定められた遺留分制度により、一定の相続人については、一定割合の財産が取得できるよう保護されています。
この保護される一定の相続人、一定割合の財産は、以下のとおりです。
- 「一定の相続人」
配偶者、子、直系尊属(父母、祖父母など)をいいます。兄弟姉妹やその子(甥姪)には遺留分は認められていません。 - 「一定の相続分」
相続人が配偶者及び子の場合は相続財産の2分の1が遺留分となります。
直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1が遺留分となります。この部分(遺留分)については、被相続人は遺言をもってしても自由に決めることができません。
遺留分侵害となる行為
以下の行為により遺留分が侵害された場合には、その侵害部分についての金銭支払いが求められます。
- ①遺贈
- ②死因贈与
- ③生前贈与
・相続開始前の10年以内の贈与
・当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与(期間制限なし)
・相続開始前の1年以内の贈与
・当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与(期間制限なし)
・不相当な対価によりなされた有償行為
遺留分の生前対策(民法上)
被相続人が、どうしても自己の財産をできるだけ多く特定の相続人や第三者に渡したい場合の生前対策として、被相続人自身で手軽にできる民法上の方法をご紹介します。
- ①遺留分の放棄+生前贈与
- ②早めの生前贈与
- ③遺言書の作成・付言事項の活用
以下、詳しく見ていきましょう。
①遺留分の放棄+生前贈与
遺留分権利者は、相続開始前(生前)であっても、家庭裁判所の許可を得た場合に限って、遺留分を放棄できるという制度があります。しかし、将来の遺留分の放棄の依頼を受けただけで、理由もなく素直に応じる相続人は、まずいません。
そこで、放棄の見返りとして生前贈与等を行う場合があります。遺留分の放棄と生前贈与をセットにすれば、「後々相続争いに巻き込まれるより、今、確実に財産を手に入れたい」と考える相続人には有効な手段です。
②早めの生前贈与
遺留分侵害の対象となる生前贈与は、先に述べたとおり、原則として、相続人に対しては相続開始前10年以内、第三者に対しては1年以内のものが対象となります。
そこで、それよりも前に贈与を行えば、遺留分算定の対象財産に含まれないことになります。つまり、できるだけ早い段階で行うことが重要です。
ただし、被相続人・受贈者双方が遺留分を侵害することを知っていた場合は、期間に関係なく、遺留分算定の対象財産になります。ここでの「損害を加えることを知って」とは、遺留分権利者に損害を加えるべき事実を知っていることで足り、加害の意思までは要求されません。
③遺言書の作成・付言事項の活用
実務上最も利用されるのは、遺言書の作成です。
遺言においては相続分の指定ができます。そこで、まず遺留分権利者には遺留分以上、あるいは遺留分に近い財産を指定して遺留分侵害額請求をさせないようにします。それ以外の財産を特定の相続人や第三者に承継するようにします。
この方法は量的には限界がありますが、財産の種類による区別には有効です。たとえば、事業承継がなされる場合、会社経営を任せる予定である特定の相続人には、事業用財産の取得を指定したり、相続財産の特定をしないこととし、他方、遺留分権利者には事業用財産や株式以外の財産、特に現金や預貯金を遺留分の範囲内で指定すれば、この者に会社経営に介入させないということも可能になります。
軌道に乗りかけた事業承継が遺留分侵害額請求で頓挫してしまうのは、一族にとって不幸であるのみならず、社会的損失でもあります。こういった事情を遺言書の付言事項として丁寧に記載しましょう。付言事項には法的な効力はありませんが、当事者の納得に資するなど有益な場合もあります。
その他の方法
これら民法上の方法以外にも、生命保険の活用、信託契約の利用、さらには事業承継も勘案した経営承継円滑化法の除外合意・固定合意、会社法の種類株式発行といった方法が考えられます。
いずれにしても、遺留分対策としては長短所があり、また複雑な仕組みとなっているものもあります。生前の遺留分対策をお考えの方は、是非、弁護士にご相談ください。人生設計に応じた提案をいたします。