相続手続きについて
相続手続きの流れ
故人を無事にお見送りした後、住所地又は本籍地への死亡届提出、年金事務所への死亡届提出、相続税の申告など、多くの手続きが必要となりますが、ここでは遺産に関する法律上の手続きについて説明します。
相続人にとって、気になるのは、残った遺産をどう整理していくかです。
そこで、まず、遺言書の調査が必要です。遺言書のあるなしは、以降の手続きを大きく左右します。
したがって、遺言書の調査および検認は出来るだけ早く行うことが重要です。
遺言書がある場合
自筆証書遺言、秘密証書遺言
自宅等で封印のある遺言書を発見した場合に、勝手に開封すると、5万円以下の過料を科されるおそれがあります。遺言書は開封せずに、故人の住所地を管轄する家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
なお、封がされていない自筆証書遺言書は、そのままの状態で、家庭裁判所での検認を受けることになります。
検認申立て後、家庭裁判所において、相続人立会のもと、遺言書の開封と確認が行われます。検認手続きが終了すると検認済証明書が発行され、これを遺言書に添付して、以降の各種手続きが進められます。
なお、2020年7月10日から開始される法務局での自筆証書遺言の保管制度を利用すると、この検認手続きが不要になります。
公正証書遺言
相続人または遺言執行者が公正証書遺言の正本や謄本を所持している場合には、これに従い相続手続きが進められます。家庭裁判所での検認手続きは不要です。
故人が公正証書遺言をしていたかどうか不明の場合は、相続人は公証役場で遺言書の検索をすることができます。
遺言書がない場合
相続人の確定
遺言書がなければ、遺産の分け方を相続人全員で話し合って決めなければなりません(遺産分割協議)。
そのためには、まず、相続人の確定が必要です。故人の出生から死亡までの戸籍書類などを取得して確認することになります。苦労して遺産分割協議を取りまとめても、相続人に漏れがあった場合には、始めからやり直しとなってしまいます。慎重かつ速やかに調査する必要があります。
相続財産の調査
次に、遺産分割の対象となる相続財産を明らかにする必要があります。相続財産には、不動産や預金、株式といったプラス財産のみならず、借入金や滞納税といったマイナス財産も含まれます。
調査は、故人が所持していた通帳やキャッシュカード、自宅に届けられた郵便物等を辿っていくことになります。また、居住地や勤務地の最寄りのゆうちょ銀行、およびいくつかの銀行に照会を依頼する方法もあります。
遺産分割協議
相続人が確定され、相続財産の把握をした時点で、遺産分割協議を開始することができます。この話し合いには特別なルールや期限はありません。しかし、相続人全員が参加する必要があります。もっとも、同時に一箇所に集まる必要はなく、電話やメール、書信等を用いることも可能です。なお、最終的に協議が整ったときに通常作成する遺産分割協議書には、相続人全員の署名押印(または記名押印)が必要です。不動産や預貯金などについての遺産分割の場合、印鑑は実印が要求され、印鑑証明書の添付が必要になります。
遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。この調停でもうまくいかない場合には、調停は不成立となり、自動的に審判に移行します。審判においては、裁判所が最終的に遺産分割を決定することになります。
相続放棄、限定承認
遺言書の有無にかかわらず、故人に負債があり相続するとかえってマイナスになるといった場合に、相続人の意思で、相続自体を辞退したり、その効果を限定的なものにとどめるということができます。相続放棄と限定承認です。
相続人が相続放棄を行うと、資産や負債の一切を受け継がないことになります。相続放棄は各相続人が単独で行うことできます。
これに対し、相続人が限定承認を行うと、相続した財産から債務を弁済することになりし、残余財産があれば相続人がこれを受け継ぎますが、逆に、債務が残った場合は、相続人はその支払いをしなくてよくなります。
限定承認は、共同相続人が単独で行うことはできません。共同相続人が全員で行う必要があります。
いずれも相続があったことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所にて手続きをしなければなりません。この期限を超えた場合には、もはや相続放棄や限定承認はできなくなり、故人の負債も承継することになります。なお、この3か月の期間(熟慮期間)は、家庭裁判所に申し立てることにより、伸長することができます。
各種相続手続き
遺言書に従って、あるいは遺産分割協議内容に従って、各自取得した遺産の相続手続きを行うことになります。具体的には、預金の払戻し、株式や不動産の名義変更等です。
これらの手続きには期限はありません。しかし、そのまま放置していると他の相続人が勝手に預金の払戻しや不動産を第三者に売却したり、さらには、相続人が死亡して二次相続が発生するなど事態を複雑なものにしかねません。できるだけ速やかに手続きを行いましょう。
遺留分侵害額請求手続き
遺言書の内容が一部の相続人にとってあまりに不利なものである場合には、その相続人は、多くの財産を相続した者に対して遺留分侵害額請求を主張できます。遺留分とは、一定の法定相続人に認められる最低限の遺産を取得する権利です。
遺留分侵害額請求権の行使期間には制限があります。故人の死亡と遺留分の侵害の事実を知った日から1年以内という期間制限です。この期間制限については、1年以内に遺留分侵害者に対し、「遺留分侵害額請求権を行使する」との意思表示を行えば足ります。通常は、遺留分侵害額請求権行使の意思表示は、内容証明郵便にて行います。その後は、遺留分侵害額請求権は金銭債権となるため、通常の金銭債権と同じく、消滅時効(債権法改正後の原則では5年)にかかることになります(相続法改正により変わりました。)。
まとめ
故人が亡くなってから約1年の間に、相続に関する様々な手続きを立て続けに行う必要があります。身内を亡くした寂しさの中で、相続紛争に巻き込まれた場合には、心労はいかばかりかと思われます。そのようなとき、諸手続きに精通し、かつ交渉のプロである弁護士に依頼していただければ、ご安心いただけるものと思います。