遺留分2 遺留分侵害額請求の裁判手続きの流れ
遺留分侵害額請求権を行使するには必ずしも、裁判手続きによる必要はありません。
当事者同士で交渉して話し合いをまとめることもできます。
話し合いがまとまらない場合は、裁判手続きの利用を検討することになります。
遺留分侵害額請求権に関する裁判手続きは、原則として、まず家庭裁判所で行います。
調停前置主義と言い、裁判をする前に、調停によって解決できないか試みる必要があります。(例外的に地方裁判所の訴訟から始める場合もあります。)
調停によって話し合いがまとまらない場合は、調停不成立となり、地方裁判所における裁判手続きを利用できるようになります。
今回は、その流れを確認しておきましょう。
目次
1、まず、遺留分侵害額の支払いを求めてみる
遺留分を侵害されている場合は、不満があるかもしれませんが感情的になって「遺留分を支払え」などと請求しても相手もすんなり応じてくれないでしょう。
冷静に数字を示して、「私の取り分が少ない一方、あなたの取り分が多すぎるので支払ってもらえませんか」と請求しましょう。
具体的には、遺留分を算定するための遺産の総額を計算し、そこから遺留分の割合に応じた額を示し、足りない額を請求する形になります。
これで相手が支払いに応じれば、解決できるわけですが、のらりくらりと話を長引かせようとする場合は、法的手段を講じる必要があります。
2、内容証明郵便で遺留分侵害額請求を行う
遺留分侵害額請求には、消滅時効期間があります。
- ・相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年
- ・相続開始の時から10年
のいずれかの期間が経過すると行使できなくなります。
そこで、この期間が経過する前に、遺留分侵害額請求権を行使してその証拠を残す必要があります。
具体的な手段となるのが配達証明付き内容証明郵便を用いることです。
内容証明郵便を用いることで、遺留分侵害額請求権を行使したことが明確になり、請求時から5年間、具体的な遺留分侵害額の支払いを求めることができます。
なお、下記の遺留分侵害額の請求調停を申し立てる場合も、その申立てとは別に内容証明郵便で遺留分侵害額請求をしておかないと、消滅時効にかかってしまうため注意が必要です。
3、遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
内容証明郵便を送っても相手が支払いに応じない場合は、当事者だけでの話し合いによる解決は難しいと判断し、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。
家庭裁判所の調停手続では、裁判官や調停委員が当事者の間に入って話し合いを行います。
実際に話す相手は調停委員になり、調停委員を介して自分の主張をしたり、相手方の主張を聞くことになります。
調停委員はその話し合いの中で、解決案を提示したり、解決のための助言をしてくれます。
調停委員が解決案を示してくれるので、これに従った方が、よりよい解決につながることが多いようです。
ただ、自分が納得しても相手が納得しなければ、調停は不成立となってしまいます。
また、調停委員の示した解決策では自分が不利だと感じたのであれば、調停に応じる必要はありません。
調停が不成立となった場合は、次の裁判手続きとして、遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。
4、遺留分侵害額請求訴訟を提起する
遺留分侵害額請求訴訟は、金銭債権の支払いを求める訴えと同じ形になります。
家庭裁判所ではなく、地方裁判所または簡易裁判所に訴えを提起します。
遺留分侵害額請求を行う原告側は、遺留分侵害額請求権を行使する旨やその具体的な金額の支払いを求める旨の主張をします。
請求を受けた被告側としては、遺留分侵害の事実はないとか、額が不当であると言った反論を行います。
原告と被告が、主に書面によって認否と反論を繰り返すことになりますが、裁判の途中で裁判官が和解を勧告することもあります。
その和解案に納得できるのであれば、和解に応じる形で訴訟が終了します。
和解に納得できない場合は、最後まで裁判が続けられ、裁判官が判決を下すことになります。
遺留分侵害額請求の裁判も三審制に基づいて行われます。
よって、地方裁判所の判決に不服がある場合は、高等裁判所に控訴することができますし、最高裁判所への上告もできます。
控訴や上告をするかどうかは、弁護士と相談して決めましょう。
5、調停調書、和解調書、判決に基づく支払いを求める
遺留分侵害額の請求調停が成立した場合は、その内容を記載した調停調書が作成されます。
遺留分侵害額請求を行う側としては、調停調書に記載された具体的な額の支払いを求めることができます。
遺留分侵害額請求訴訟で和解調書が作成されたり、判決が出された場合も同様です。
これでも相手が支払いに応じなかったり、無視している場合は、強制執行手続きを取ることができます。
判決を無視している場合はもちろんですが、調停調書、和解調書も判決と同様の効力があるため、これらの調書に基づいて強制執行を行うことができます。
強制執行手続きでは、被告の所有する財産を差し押さえて競売にかけて、その売却代金から遺留分侵害額を回収する形になります。
遺留分侵害額請求権では金銭的な請求しかできないことに注意
遺留分侵害額請求権は、金銭的な債権です。
遺留分を侵害されている側としては、お金ではなくて、被相続人が所有していた土地や建物と言った不動産や車などの動産その物を引き渡してほしいと言った要望を持っている方もいるかもしれません。
しかし、遺留分侵害額請求権は、遺言書に基づく相続手続きなどが終わった後で、行使されることが多いため、相続した人が、相続した土地や建物を既に他に転売してしまっている可能性もあります。
転売した土地や建物を取り戻せというのでは、土地や建物を買った人も巻き込んで、大変な法的紛争に発展してしまいかねません。
そのため、民法では、相続手続きが済んだ後は、金銭的な請求しかできないものと定められています。
まとめ
今回は、裁判所の手続きによって、遺留分侵害額請求を行う場合の簡単な流れを確認しました。
上記に紹介した手続きのうち、遺留分侵害額の請求調停までは、ご自身で行うことも難しくはありません。
ただ、遺留分をめぐる法的なトラブルについては、早い段階から弁護士にご依頼いただく方が早期に解決できると思います。
少しでも難しいと感じたり、疑問点があったら早めに弁護士にご相談ください。
千葉県は、特に相続問題が発生しやすい土地ではないかと感じています。東京に近い一方で、昔ながらの習慣が残っており、代々続く家を守ろうとする考え方は、現代の相続法と相いれない場面があります。相続問題は、よく言われますが、「我が家に限ってもめるはずがない」と考えていたのに巻き込まれてしまう、というケースが散見されます。いつ発生するか分からない問題です。また、将来のことを考え、遺言などで準備することもできます。西船橋駅を中心とした地域で相続・遺言などの問題にお困りの際には、是非とも一度、藤岡法律事務所までご相談下さい。