遺留分侵害額請求の2種類の時効と時効を止める方法
遺留分侵害額請求権の時効は1年間と5年間の2種類の消滅時効があります。
遺留分侵害額請求権行使の意思表示は、相続開始後、遺言書を発見し内容を確認した時から1年以内、具体的な遺留分侵害額の請求は、その意思表示から5年以内に行う必要があります。
遺留分侵害額請求の2種類の消滅時効とそれぞれの消滅時効を止める方法について解説します。
目次
受遺者から見た遺留分侵害額請求権の性質
遺留分侵害額請求とは、法定相続人のうち、配偶者、子など直系卑属、直系尊属が、法定相続分の一部について権利を主張できるものです。
例えば、被相続人が遺言書により、遺産をすべて相続人以外の者に遺贈する旨を定めていたとしても、遺留分を有する法定相続人は、遺贈を受けた人(受遺者)に対して、遺留分侵害額請求を行い、金銭の支払いを求めることができます。
遺贈を受けた人(受遺者)としては、せっかく遺言により遺産の遺贈を受けても、法定相続人から遺留分侵害額請求がなされてしまうと、もらった遺産の一部を返さなければならないことになり、いつ何時、遺留分侵害額請求がなされるか分からず、不安定な立場に立たされてしまいます。
これでは、せっかくもらった遺産を活用することができないこともあるでしょう。
そのため、法定相続人が遺留分侵害額請求権を行使できる期間は限定されています。
遺留分侵害額請求権の時効及び除斥期間が設けられているわけです。
遺留分侵害額請求権の時効とは
法定相続人が遺留分侵害額請求権を行使するためには、相続開始後、遺留分侵害額請求権を行使するという意思表示を行うことと、その意思表示の後で、実際に受遺者等に対して具体的な遺留分侵害額を請求するという2段階を経なければなりません。
遺留分侵害額請求権には、この2段階に応じた2種類の時効があります。
- ・相続開始後、遺留分侵害額請求権を行使するまでの期間の時効。
- ・遺留分侵害額請求権の行使後、実際に支払いを受けられるまでの期間についての時効。
前者の時効は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間です。
後者の時効は、遺留分侵害額請求権を行使した時から5年間です。
一般的な流れとしては、相続が開始された後で、遺言書を発見し、遺言書の検認を終えた時点から1年以内が、遺留分侵害額請求権行使の時効期間になります。
法定相続人としては、その1年間以内に遺留分侵害額請求権を行使するという意思表示を行っておけば、具体的な遺留分侵害額の請求は、意思表示をした時から5年以内に行えばよいことになります。
遺留分侵害額請求権の除斥期間
除斥期間とは、一定の期間が経過すると自動的に権利が失効するという意味です。
時効は、権利行使が可能なのに権利行使しない場合に権利を消滅させる制度ですが、除斥期間は、権利行使が可能であることを知らなかったとしても、一定期間経過後に権利が行使できなくなる制度です。
遺留分侵害額請求権では、1段階の期間について、10年間の除斥期間が設けられています。
つまり、相続開始の時から10年を経過したときは、法定相続人が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても、もはや、遺留分侵害額請求権を行使する意思表示を行うことができなくなります。
遺留分侵害額請求権の1年間の時効を止める方法
相続開始後、法定相続人が遺留分侵害額請求権を行使するまでのタイムリミットは1年間です。
この期間の時効を止めるには、遺言書を発見し、内容を確認して、遺留分が侵害されているとわかったらすぐに遺留分侵害額請求を行う旨の意思表示をしなければなりません。
遺留分侵害額請求の意思表示の相手は、遺贈を受けた人(受遺者)等です。
法定相続人の誰かが法定相続分を超えて余分に相続する内容の遺言の場合は、余分に相続を受けた相続人が相手方になります。
意思表示の方法については、民法には特に定めはありませんが、意思表示した日付を明確に残すために、配達証明付内容証明郵便で通知書を送る方法が一般的です。
通知書に記載すべき内容は次の4点です。
- ・請求をする本人と相手方
- ・請求の対象となる遺贈、贈与、遺言の特定
- ・遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する旨
- ・請求の日時
この通知書では、具体的な遺留分侵害額請求額まで記載する必要はありません。
遺留分侵害額請求を行使するという意思表示だけ、取り急ぎ伝えれば足ります。
遺留分侵害額請求権行使後、5年間の時効を止める方法
法定相続人が遺留分侵害額請求権を行使するという意思表示を示した後は、法定相続人と受遺者等との間で、具体的な額について協議を行うのが一般的です。
ただ、単純に話し合いをするだけでは、5年間の消滅時効期間を止めることはできないので注意しましょう。
遺留分侵害額請求権について協議を行う際は、協議を行う旨の合意を書面で交わすことがポイントです。
この書面を作成しておけば、1年間は時効が完成しないという「時効の完成猶予」の効果が生じます(民法151条)。
1年経過した時点で再度書面を作成すればその時点から1年間時効の完成猶予の効果を延長させることも可能です。
ただ、時効の完成猶予は、時効の完成を先延ばしにしているだけで、完全に時効を停止させるものではありません。
5年間の時効を確実に止めるためには、5年以内に遺留分侵害額の支払いを求める旨の裁判を起こすべきです。
5年以内に提起しておけば、裁判が長引いて、遺留分侵害額請求権行使から5年を過ぎてしまっても、時効によって権利が消滅することはありません。
そして、裁判で勝訴し、法定相続人に具体的な遺留分侵害額を請求する権利があることが確定すれば、時効期間が10年間になります(民法169条)。
つまり、判決確定時から10年以内に確定判決に基づいて、受遺者等の財産に対する強制執行を行えばよいということです。
まとめ 遺留分侵害額請求権を行使したいならすぐに弁護士にご相談ください
遺留分侵害額請求権には2つの時効があることを解説しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
遺留分侵害額請求権の時効制度は2段階に分かれているため、一般の方では、理解できないことも多く、その結果、遺留分侵害額請求権を行使できなくなってしまうこともあります。
ネット上では、「遺留分侵害額請求権の時効は5年間」といった内容が出回っていますが、その正確な意味を理解していないと、いざ権利行使しようとしたときは、もはや手遅れということもあります。
遺留分侵害額請求権を行使しようと思い立ったなら、可及的速やかに弁護士にご相談いただくのが確実です。
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