特別受益に時効はあるのか?10年の時効とは?
特別受益に時効はあるのでしょうか。
遺産分割協議では、10年以上前の生前贈与について特別受益を主張できるのでしょうか?また、特別受益を主張できる期限はあるのでしょうか?
結論から言うと、遺産分割協議における特別受益に時効はないため、10年以上前の生前贈与についても主張できます。
ただ、特別受益を主張できるのは、相続時から10年以内に遺産分割協議を行う場合に限られます。
特別受益と時効の関係について解説します。
特別受益とは
被相続人が亡くなった場合は、被相続人の遺産は法定相続分に従って分け合うのが原則です。
ただ、法定相続人のうち、被相続人の生前に多額の財産の贈与を受けている人がいたり、遺言で余分に遺贈を受けている人がいる場合に、残りの遺産を法定相続分で分け合うのは不公平です。
そこで、こうした生前贈与と遺贈を残りの遺産に合わせることで全体の遺産としたうえで、法定相続分で分け合うというのが、特別受益制度の趣旨になります。
生前贈与と遺贈のことを「特別受益」といい、特別受益を遺産に組み入れることを「持ち戻し」と表現します。
特別受益に時効はあるのか
特別受益に時効はありません。
例えば、法定相続人の一人が10年以上前に多額の生前贈与を受けていたとしましょう。
この場合でも、10年以上前の贈与だから「時効」なので、持ち戻しの必要はないということになるわけではなく、特別受益として持ち戻しの対象になるということです。
例えば、父親が亡くなり、A、B、Cの3名の子が法定相続人になったとします。
このうち、Bは15年前に住居購入費として2,000万円、また、Cも8年前に住居購入費として2,000万円の生前贈与を受けていたとします。
そして、父親が亡くなった時に2,600万円の遺産を残していたとします。
この場合、Cが受けた生前贈与はもちろんですが、Bが受けた生前贈与も持ち戻しの対象になるということです。
そのため、父親が亡くなった時の遺産の総額は次のように計算します。
これを法定相続分で分け合うことになりますから、
A、B、Cそれぞれの法定相続分は、2200万円ずつということになります。
そして、B、Cはそれぞれ2,000万円ずつ生前贈与を受けているため、遺産分割時の取り分がそれぞれ2,000万円ずつ差し引かれます。
そのため、法定相続分で分け合う場合は次のように遺産分割されます。
B、200万円
C、200万円
特別受益の時効が10年とは?
ところで、「特別受益の時効は10年だよ」という話を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、すでに述べたとおり、民法の特別受益に関する条文(民法903条)にも、10年の時効といった文言はありませんし、そのような判例もありません。
では、特別受益の時効が10年という話はどこから出てくるのでしょうか。
実は、遺留分を計算するための生前贈与については、相続人に対する贈与が「相続開始前の10年間」のものに限られるという規定があります(そのほかの贈与は、相続開始前の1年間。)(民法1044条)。
遺留分とは、法定相続人に最低限認められている取り分のことです。
例えば、父親が亡くなり、A、B、Cの3名の子が法定相続人になったとします。
父親が亡くなった時に2,000万円の遺産を残していました。
そして、父親はこの遺産をすべてAに相続させるという遺言を残していたとします。
ところで、Aは、8年前に1,000万円の生前贈与を受け、B、Cもそれぞれ、15年前に1,000万円の生前贈与を受けていたとします。
この事例で、B、Cが遺留分を主張する場合は、Aへの生前贈与分の1,000万円のみが持ち戻しの対象になります。
よって、2,000万円+1,000万円=3,000万円を遺産の総額と計算し、ここからそれぞれの遺留分が計算されます。
B、Cのそれぞれの遺留分の割合は、法定相続分の1/2なので、1/2×1/3=1/6になります。
つまり、B、Cがそれぞれ主張できる遺留分の額は、500万円になるということです。
遺留分侵害額請求に関する規定があるため、「特別受益の時効は10年」という誤解がなされていることがあります。
しかし、遺産分割における特別受益には時効がないので、混同しないように注意してください。
特別受益を主張できる期間
「特別受益の時効が10年」という言葉には、もう一つ意味があります。
特別受益を主張できる期間は、10年間に限られているという意味です。
こちらの意味については、正しいということになります。
長年遺産分割協議がなされないままに放置された後で、改めて、遺産分割協議を行おうとする場合は、法定相続人の記憶も薄らいでいることもありますが、法定相続人も亡くなっていて代替わりしている可能性もあります。
このような状況で、遺産分割協議の際に、特別受益を主張されても、話がまとまらなくなるため、一律に特別受益の主張はできないものとする規定が設けられています。
具体的には、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割協議では、特別受益と寄与分の主張をすることはできないものとされています(民法904条の3)。
例えば、父親が亡くなり、A、B、Cの3名の子が法定相続人になったとします。
このうち、Bは15年前に住居購入費として3,000万円、また、Cも8年前に住居購入費として3,000万円の生前贈与を受けていたとします。
そして、父親が亡くなった時に1,500万円の遺産を残していたとします。
ところが、父親が亡くなった後、10年以上遺産分割協議をしないままに放置していました。
A、B、Cの誰かが遺産分割をしていなかったことを思い出したのをきっかけに、父親の1,500万円について遺産分割協議を行うことになりました。
この場合、Aは、B、Cがそれぞれ父親の生前に3,000万円も特別受益を受けているのだから、B、Cの取り分はなしで、1,500万円はすべて自分が相続すべきだといった主張はできないということです。
法定相続分で分け合う場合は、A、B、Cの取り分はそれぞれ500万円ずつになります。
まとめ
特別受益には時効がないため、被相続人が亡くなった後、すぐに行う遺産分割協議では、10年以上前の生前贈与も持ち戻しの対象とすることができます。
しかし、遺産分割協議を10年以上やらないで放置していた場合は特別受益の主張ができなくなります。
また、遺留分侵害額請求を行う場合の遺産総額の計算では、10年以上前の相続人への生前贈与は含めることができません。
このように特別受益の時効については、話がややこしいので、よく理解することが大切です。
もしも、分かりにくい場合は、ご自身で判断するのではなく、相続問題に詳しい弁護士等にご相談ください。
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